「いつもよく行く喫茶店で」
「チャイをくだチャイ!」
行きつけのカフェで馴染みの店員に声をかける。
すると、同世代の彼らは決まって呆れた顔をしながら、軽い世間話ののちにチャイを出してくれる。

昨年の今頃、移住を目前に控えた私は、期待とは裏腹に、不安ばかりを募らせていた。
初めての土地。初めての人。初めての職場。
協力隊という制度も、期限があり、身近に経験者が少なく、なってみないとわからないことが多いという点で、私を不安にさせる要因だった。
そんな私は今、「チャイをくだチャイ!」などと言いながらチャイを頼むくらいには、石巻に居心地の良さを感じている(私はリラックスした時ほどこの類のボケを口から垂れ流してしまう性分である。ごめんなチャイ)。
移住から1年を前に、私の緊張と不安を解きほぐしてくれた要因を考え続けていた。
そしてふと、この街の「生き方の見本市」である様子と、「受容力の高さ」が、居心地の良さの正体なのだと気がついた。

このカフェにいると、学生、農家、料理人、役所職員、建築家、漁師、音楽家、俳優、デザイナー、写真家など、本当に多彩な面々と顔を合わせる。いくつかの仕事を掛け持つ人もいる。老いも若きも、外国人も、国内各地からの移住者もいる。
世の中には、いろんな人がいて当然だ。ただ、そのいろんな人が混じり合う「いい意味」でのコミュニティの狭さ・人と人の近さは、特に都市部では簡単に得難い。
そして、この街の人は、新たにやってくる人を、(全員が手放しに喜んでいるとは思わないが)「そんなこともある」と思い、肯定せずとも許容する、そのくらいの心の広さをもっている気がする。
それが純粋に心地よく、大都市近郊で自分自身が狭めてしまっていたであろう生き方の「可能性」が、自然と広がっていくように思う。

「生き方」という話で言えば、私は今、活動拠点の渡波地区で、「渡波持ち寄り会」という会を開催している。
地域のお母さんたちと若者に食べ物を一品以上持ち寄っていただき、地域の昔の姿や暮らしぶりをテーマにお話を伺う、「テーマ設定型お茶っこ」ともいうべき活動だ。
渡波町がまだ石巻市に合併する前、魚市場があり、商店街は買い物客でごった返し、芝居小屋ではチャンバラが演じられ、3軒あった銭湯が大賑わいだった時代の話を伺うと、この街の過去の様子や活気が頭の中に映像で浮かび上がってくるような気がする。

知的好奇心が満たされる有意義な時間だ。それだけではなく、今まで自分が考えていた「生き方」がいかに狭い視野で考えられたものであるかを、強く感じさせられる。
考えを凝り固まらせないこと。この街はそれを教えてくれる。それが私には「解放的」に映り、居心地の良さにつながっているのだろう。

先日、協力隊員の新規募集が締め切られた。
今後も新たな移住者が、新たな生き方を模索しながらこの地に馴染んでいくはずだ。
私も移住から1年。もっともっと貪欲に、この街から、皆さんから、生き方を学び、好奇心を高め、この先の人生を描いていきたい。
だからこそ、皆さん、これからもたくさんのことを教えてくだチャイ。
齊藤 文哉
株式会社Active Life Lab(受入先)
https://www.instagram.com/activelifelab
横浜市港北区出身。立教大学文学部史学科で、都内の住宅街に遺る古墳を調査・研究しながらバンドサークルで活動。卒業後は大手旅行会社の仙台支店で教育旅行を中心に営業・添乗。2026年1月より現職で地域の魅力の発掘と発信に取り組む。チャイよりもコーヒーを頼むことが多い。
